サヨナラなんて言わせない
「いいの。どっちも凄く良かったけど、どっちにするかの決定打がなかったから」

彼女はしばらく考えた後、当たり障りのない答えを返してきた。
・・・きっと本当の理由はほかのところにあるのだろう。

「・・・僕がプレゼントできたらいいのに」

「・・・は?」

俺は無意識のうちに本音を口に出してしまっていた。
驚いた彼女の顔を見て我に返り慌ててその場を取り繕う。

「僕がきちんと記憶があればお金も・・・多分あるだろうし、涼子さんにプレゼントできるのにって。こんな自分がふがいないです」

「・・・それは無理だよ」

「えっ?」

「・・・だって、あなたが記憶喪失にならなければ私たちの接点なんてどこにもない。一生会うこともなかった者同士なんだから。だからあなたに買って貰うことなんてそもそもあり得ないでしょ」




『接点なんてどこにもない』『一生会うこともなかった者同士』



笑いながら彼女が吐き出した言葉は、まるでナイフで胸を突き刺されたかのように激しい痛みを伴って俺の心を抉った。
こともなげにさらっと言ったのもひどくショックだった。
・・・・まるで今夜話そうとしていることが全て無駄だと言われているようで。
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