サヨナラなんて言わせない
・・・・もう俺が入り込む余地など欠片ほどもないのだろうか。


心が見えない暗闇に包まれそうになった時、ふとあの青年の顔が浮かんだ。


「あの人ですか・・・?」

「え?」

「昨日のあの人・・・・」

きちんと話をするまでは踏み込んではいけない。
俺はそんな立場にないのだから。
そう頭で理解しつつも、焦る気持ちを抑えきれない俺はつい口にしてしまっていた。

「中村君に会ったの?」

「・・・はい。夕べ涼子さんがなかなか帰ってこないから心配で。それでずっと起きてて・・・音が聞こえて玄関まで行ったら、あの男性に抱えられるように涼子さんが・・・」

俺の答えを聞いた彼女はまずいというような顔をして溜息をついた。
そんなに都合悪いことがあるんだろうか。それならば・・・・

「・・・やっぱり恋人なんですか?」

「・・・は?」

「あの彼は・・・」

この先の答えを聞くのはとてつもなく怖い。
もしそうだと言われたらどうするつもりなんだ。
お前は今夜話をすると決めていたんじゃないのか。
< 61 / 373 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop