サヨナラなんて言わせない
目の前の光景が信じられない。

掲げられた『入居者募集中』の文字。

「・・・・嘘だろう・・・?」

彼女がいなくなってしまった。

俺の前から跡形もなく消えてしまった。


信じたくない現実に打ちのめされる。震えが止まらない。


「そうだ、会社に行けば・・・・・」

彼女が転職しない限り会社に行けば会うことは可能だろう。


・・・・だがそこで思いとどまる。
そこまで彼女を追い詰めていいのだろうかと。

あれだけ温厚な彼女がはっきりと示した拒絶。
そこまで踏み込むことだけは許されないような気がした。
散々彼女を苦しめてきた最低クズ野郎の俺がそれをすることだけは許されない。


『後悔しても遅いんだからね?』


親友の言葉が響き渡る。



後悔なんて言葉じゃ表せない。






それは救いようのない最低人間の俺にはあまりにも相応しすぎる結末だった。

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