サヨナラなんて言わせない
「あ、涼子さん・・・昨日は本当にすみませんでした。・・・あの、体が温まるように
うどんを作りました。それから、ホットミルクもあるのでよかったら・・・」

俺が話しているのなんて気にも留めず、一旦部屋に戻って身支度を済ませると、彼女はそのまま無言で家を出て行ってしまった。
誰もいなくなった玄関で一人立ちつくす。

何が今夜全てを話そう、だ。
会話はおろか、一度だって目すら合わせてもらえなかった。
とてもじゃないが今あのことを話せるような状況ではない。

だからといって現状がよくなる方法がわからない。

「はぁ・・・・・」

もう何度目かわからない溜息が零れた。



それから虚しく残された朝食を自分で片付けると、いつも通り一通り家の片付けを始めた。すっかりこの部屋にも慣れたもので、手際よくあっという間に終わってしまった。

いつもならここから記憶を取り戻すための時間となるのだが、
もうその必要もない。


「・・・・・・・・一度話をしとかないとな・・・・」


はぁっと息を吐き出すと、重い腰を上げて出掛ける準備をした。
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