サヨナラなんて言わせない
「司がどこに行ったのかは想像がつくけど、何の連絡も来ないからさすがに心配したよ」

事務所内にある接客用の小さな個室に入ると、カナはすぐに本題に入る。
5日も無断で事務所を空けてしまった俺を責めることもなく、至って冷静に切り出した。
向かい合う形で俺も腰掛けると、小さく息を吐いた。

「悪かった。何から話せばいいのか・・・。どこに行ってたかはお前の想像通りだよ。・・・ただ、彼女に会う前にアクシデントが起こったんだ」

「アクシデント?」

「あぁ。彼女の家の近くで飛び出してきた自転車と激しくぶつかってな。倒れた拍子に頭を打って・・・数日記憶が飛んでたんだ」

俺の言葉にカナの顔が驚愕に染まる。

「え、嘘でしょ?!そんなことってあるの?っていうか頭は?大丈夫なの?激しくぶつけたんでしょう?」

矢継ぎ早に飛んでくる質問に思わず苦笑いが零れる。

「大丈夫だよ。でかいたんこぶができてさすがに数日は痛かったけどな。今はもうほとんど何ともない」

「そ、そっか・・・それならいいんだけど。・・・え、記憶が飛んだって、それでどうしたの?彼女に会ったんだよね?」

「・・・・・・・・・あぁ」

「司・・・?」

急にトーンダウンした俺の様子にカナが顔をしかめる。
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