ひとひらの雪




──ピンポーンッ


 すっかり陽は沈み時計の短針が8を少し過ぎた頃、自室で机に伏せていた奈々の耳にインターホンの音が届いた。


「…こんな時間に、誰?」


 両親なら鍵を開けて入ってくる。来客など滅多にないこの家に来るとしたら雪姫だろうか。


──こんな遅くに一人で?あのバカ…!


 けれど、ちょうど良かった。雪姫にどうしても
......
話したいことがあったからだ。


 廊下にある受話器のモニターで確認する。が、誰も居ない。不思議に思いながらも奈々は階段を下り、玄関へと向かった。


 扉を開けると共にふと感じた違和感。それは、庭で犬が吠えていること。


 去年の夏から飼い始めたアイリッシュ・セターのメルは雪姫にとても懐いていて、彼女がベランダまでよじ登った際も吠えることなく尻尾を振っていた。それなのに。


──雪姫じゃ…ない。


 急に悪寒が走り背筋が凍りついた。粟立つ肌をさすり、辺りを見回す。


「…誰?…いったい誰なのよ…!?」


 恐怖で情けないくらい上擦った声が夏の空気に溶けていく。と、その時。


「──よぉ、川瀬。」



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