ひとひらの雪
「あ゙ーっ、また負けたーっ!」
「ふふふっ、雪姫ちゃん弱ぁい。」
5歳児に一度も勝てず、雪姫は畳にバタッと倒れ込んだ。その様子を面白がって陽菜も並んで寝転がる。
「…わたしが相手だとつまんなくない?」
「ううん、楽しぃよぉ。遊んでくれてありがとぉ!」
無邪気にニコニコ笑う陽菜が可愛くて思わずぎゅっと抱きしめた。妹が居たらこんな感じなのだろうか。
──そっか。琥太郎も"お兄ちゃん"なんだよね。
暖簾越しに見える店内でせっせと働く琥太郎の姿は何だか頼もしい。
双子とは言え雪姫は妹。兄である晴流がしっかり者に育った理由が今なら分かる気がする。
──甘えてばかりだもんね、わたし。
「…雪姫ちゃん?」
一瞬。ほんの一瞬だけ見せた悲しげな笑みに陽菜は気がついた。けれどすぐに笑顔に戻った雪姫はバッと立ち上がる。
「…よしっ!お店忙しそうだし、手伝いに行こっか?」
「…うんー!」
見間違いかな、と思った陽菜は雪姫にエプロンを渡し、仲良く暖簾を潜った。