ひとひらの雪
店内はほぼ満席で、琥太郎も両親も額に汗を浮かべて走り回っていた。
「おじさん、おばさんっ。わたし達も手伝うよ!」
「あら雪姫ちゃん、座ってていいのに。」
「ご飯ご馳走になったもん、手伝わせて!お品書き全部覚えてるしっ(一通り食べたことあるから)」
言うや否や、雪姫は伝票片手にオーダーを取りに行った。
「…本当に良い子だなぁ。琥太郎の嫁さんに来てほしいよ。」
「ねー!」
父親と陽菜のやり取りを聞き真っ赤になった琥太郎は雪姫に「暑いの?」なんて言われていた。
「──おおっ、杉崎。と、天城の妹さん。」
入り口の引き戸が開きふいに聞こえた声。そこには見覚えのある人物が立っていた。
「あれっ?確か晴流の担任の…」
「灰原です。先日はろくに挨拶もしなくて、すみません。」
「あっ、いえ!」
それは晴流が病院に運び込まれた際に一度だけ会った担任の灰原だった。すると琥太郎がこっそり耳打ちする。
「灰原先生、うちの店の常連さんなんだぁ。」
──ああ、だから二人共面識ある感じだったんだ。