ひとひらの雪


「席二つ空いてるかな。」


「あ、はい!………え、二つ?」


 普段灰原は一人で来るのか、琥太郎は不思議そうに首を傾げた。雪姫もつられて首を傾げ灰原の後ろに目を凝らす。


 確かに、居た。闇に溶け込みそうな程暗鬱としているが、眼鏡をかけた男性が俯いて立っている。


 ああ、と灰原はその人を紹介した。


「杉崎は知ってるな?今年赴任したばかりの児嶋(コジマ)先生。一部のクラスで数学を教えてる。まだ学校に馴染めてないみたいだから飲みに誘ったんだ。ほら。」


 肘で促され児嶋と呼ばれた先生はゆっくりと顔を上げた。人見知りなのか小刻みに揺れる視線が何とかこちらを向く。


「「こんばんは。」」


 琥太郎と共に挨拶をした、その時だった。


「…ぅっ、ゔわ゙ぁあぁぁーーっ!!!!」


 突然児嶋は絶叫した。いや、悲鳴を上げた。まるで化け物でも見るような怯えた表情で。


「児嶋先生!?いったいどうし…」


「ぁあ゙ぁぁーーっ!!!」


 灰原が言い切るよりも速く児嶋は慌てて店を飛び出した。途中戸にぶつかり転びながらも逃げる様はどう見ても異常だった。



< 104 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop