ひとひらの雪
「席二つ空いてるかな。」
「あ、はい!………え、二つ?」
普段灰原は一人で来るのか、琥太郎は不思議そうに首を傾げた。雪姫もつられて首を傾げ灰原の後ろに目を凝らす。
確かに、居た。闇に溶け込みそうな程暗鬱としているが、眼鏡をかけた男性が俯いて立っている。
ああ、と灰原はその人を紹介した。
「杉崎は知ってるな?今年赴任したばかりの児嶋(コジマ)先生。一部のクラスで数学を教えてる。まだ学校に馴染めてないみたいだから飲みに誘ったんだ。ほら。」
肘で促され児嶋と呼ばれた先生はゆっくりと顔を上げた。人見知りなのか小刻みに揺れる視線が何とかこちらを向く。
「「こんばんは。」」
琥太郎と共に挨拶をした、その時だった。
「…ぅっ、ゔわ゙ぁあぁぁーーっ!!!!」
突然児嶋は絶叫した。いや、悲鳴を上げた。まるで化け物でも見るような怯えた表情で。
「児嶋先生!?いったいどうし…」
「ぁあ゙ぁぁーーっ!!!」
灰原が言い切るよりも速く児嶋は慌てて店を飛び出した。途中戸にぶつかり転びながらも逃げる様はどう見ても異常だった。