ひとひらの雪


「………どうしたって言うんだ…?」


 訳が分からず目を丸くする三人。水を打ったように静まり返った店内に、陽菜の幼い声がやけに響く。


「…あのお兄ちゃん、雪姫ちゃんのお顔見てビックリしてたねぇ。」


 その場に居た全員が陽菜を見やり、そして雪姫を見た。琥太郎は戸惑いがちに尋ねる。


「…雪姫ちゃん、初対面だよね?」


「うん。…あ、晴流のクラス受け持ってる?生き霊だと思われたのかも。」


 しかし灰原がすかさず否定した。


「うちのクラスは別の先生だし、まだ僕と校長と教頭しか事件のことは知らないよ。」


「じゃあ…」


 雪姫と琥太郎の脳裏には同じ答えが浮かんでいた。


 晴流とそっくりな雪姫の顔。それを見て激しく動揺した数学教師の児嶋。彼は、もしかすると…。


「ゆ、雪姫ちゃん…っ」


 何と言ったらいいか分からないという様子で見つめる琥太郎。しかし雪姫も混乱のあまり言葉を失っていた。


──児嶋先生が犯人?じゃあ事件当日に姿を消した久遠は偶然ってこと…?


 ざわめきを取り戻す店内。彼らの心に芽生えた黒い疑惑は確かにある方向へと向かっていた。





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