ひとひらの雪


 また友人を傷つけられる、と拳を握り身構える。しかし鳩山からの返答は違った。


『いえ。昨日鷺沼が天城くんに事情聴取をしたのですが、犯人は"聞いたこともないような低い声だった"と言っていたそうです。元々動機も見つかりませんでしたし、三人共捜査対象から外れたと思って下さって結構ですよ。』


「え…っ」


──みんなの疑いが、晴れた…?


 これでもう誰も無意味に傷つき苦しむことはないのだろうか。涙を流し、目を腫らすことも。


「…良かったぁ…っ」


 ホッとするあまり脱力し、雪姫は壁に凭れ掛かって天井を仰いだ。事件が起こって以来初めて気が抜けたように思う。


『まあしかし…また振り出しに戻りましたがね。』


「あ…」


 しかし苦味を帯びた鳩山の声を聞いてハッとする。


 琥太郎達の疑いが晴れたということは警察の捜査が一からやり直しになったということだ。他に疑わしい人物がいなかったからこそ、彼らは容疑者候補となってしまったのだから。


──事件は終わってなんかいない。今ようやくスタートラインに立ったんだ。



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