ひとひらの雪




 商店街の外れにひっそりと立つ築30年の古い木造アパート。その2階奥、神経質そうな細い字で【児嶋】と書かれた部屋。そこを一人の少年が訪ねた。


──コンコンコン…ッ。


「ケースケくん、入るよ。」


 少年は慣れた手付きで鍵を開け、中に滑り込む。


 狭い廊下を抜けた先の5畳程の部屋。敷きっぱなしの布団を頭から被り、児嶋啓介は震えていた。


「…ど…して……どうしてあいつが……」


「ケースケくん。」


 二度目の呼び掛け。そこで児嶋はようやく少年の存在に気がついたようだった。


「湊人(ミナト)…」


「何があったのさ、そんなに震えて。」


 湊人と呼ばれた少年は床の空いているスペースに腰を下ろした。児嶋は布団を被ったままボソリと呟く。


「…あいつが…居た。」


「それで。」


「…顔を…見られたんだ…」


「…それで。」


 児嶋はグシャリと泣きそうな表情で声を詰まらせる。


「きっと、バレた…!嫌だ…もう二度と、逮捕なんてされたくない…!!ボクは、ボクは、どうしたらいいんだ……っ!?」


 最後の方は半狂乱になり、壁に投げつけた目覚まし時計は大きな音と共に砕け散った。



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