ひとひらの雪
「…ふーん。」
児嶋は肩で息をしながら再び嗚咽を漏らす。一頻り言いたいことは済んだのだと理解し、湊人は口を開いた。
「じゃあ──殺しちゃえば。」
たった一言。その一言で部屋に内包された茹だるような暑さは真冬のように凍てついた。
「……………え?」
「だからー、殺しちゃえばって言ったの。そしたらケースケくんのしたこと、誰にもバレずに済むでしょ。」
耳を疑う。彼は本気で言っているのだろうか、と。その顔には作りモノの笑顔が貼り付けられていて真意は読み取れない。
しかし付き合いの長い児嶋は直感した。正真正銘本気なのだ、と。
「…でも、そんな…」
「大丈夫。僕が手伝ってあげるからさ。」
その眼に宿る絶対の自信、真っ黒に渦巻く狂気。周りの大気をも巻き込むその引力はまるで甘美な毒のようで。
「ケースケくんが味わった痛みや苦しみ、知ってもらわなきゃ。」
「………うん…」
歪んだ想いは複雑に絡み合う。荒れ狂う激流は速さを増すばかりだ。