ひとひらの雪
スルスルと器用に下りた雪姫は、へたり込む斗真の手から先程放ったものをひょいっとつまみ上げる。
「もうっ、なんでビビるかなー。」
それは艶々と輝く大きなカブトムシだった。男の子なら泣いて喜びそうなものだが、虫嫌いの斗真は別の意味で涙目だ。
「お前っ…バカ!他人の嫌がることすんなって習わなかったのかよ!?」
「違うよっ、苦手を克服する特訓をしようと…」
「余計トラウマになるわ!!」
しばらく小競り合いをしていた二人だったが、痺れを切らした奈々の怒声に身を竦めた。
「いい加減に手伝いなさいっ、二人ともー!!」
「オレもかよ!」
ブツブツ文句を言いながらも土を払い立ち上がった斗真は雪姫の手を掴んで歩き出す。
「行くぞ!」
「はーいっ」
からかいがいのある弟のような、頼もしい兄のような。それでいて同じ目線でものを言い合える斗真を、雪姫は結構気に入っていた。
そっと解放したカブトムシは、すぐに青空と入道雲に消えてしまった。