ひとひらの雪
雪姫は目を見開き、自分の耳を疑った。晴流が自分の意志で脱走だなんて、とても信じられない。
──あんな怪我で、まともに動けるはずがないのに…っ。
「…どうして、言い切れるんですか…?」
雪姫は震える声で問う。頭では理解しているのに心が追いつかない、といった感じだ。そんな彼女に対し鳩山は確認するように事実を言葉にしていく。
「廊下には絶えず警察の人間が居ました。お兄さんがいなくなったのは3時から4時の間ですが、その間誰も入室していません。それに…」
鳩山の視線は割れた窓へと向けられる。
「病院の窓は少ししか開かないようになっていて、通り抜けるにはこのように割るしかない。それもなるべく音を立てない方法で。それは、
....
内側からしか出来ないのです。」
「…?」
益々疑問符を浮かべる雪姫。すると鷺沼は病室の隅に丸めて置いてある何かを広げてみせた。
それは、重ねてシート状にしたガムテープ。その粘着面にはビッシリと大小様々なガラス片が付着している。
「これは…?」
「"なるべく音を立てずに窓を割る方法"だよ。」