ひとひらの雪


 ふと、小さな疑問が芽生える。


「…あのっ、晴流はガムテープをどこで?」


 入院中にけして使うことはないだろう道具。それはもちろん雪姫や咲季が持ってきたものではない。


「ああ、検診時"ノートの背表紙を直したいから"と看護士に借りていたものらしいです。後で点滴を替える時にでも返すから、と。」


「ノート…」


 雪姫はふとベッド脇の棚の上に視線を移した。そこにはパステルカラーの花籠と一冊のノートがある。


──花…誰のお見舞いだろう?


 そう思いながらもとりあえずノートを取り、一ページずつ捲っていく。


数学の公式、古典の訳、英文のまとめ…


 頭が痛くなる程真面目な内容。しかし、あるページだけは明らかに違っていた。


「…っ!」


「雪姫さん?」


 しばらく動きを止めた後、雪姫は勢い良く病室を飛び出した。


 あまりに突然の行動に唖然とする刑事達。しかしすぐにハッとする。


「…っ鷺沼!」


「追います…!!」


 今、雪姫は酷く混乱している。状況が状況なだけに一人にはさせられない。



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