ひとひらの雪
「雪姫さん、少し休もう。」
家に帰そうとしたが"まだ晴流は見つかってないから"と頑なに拒否する雪姫。鷺沼はとりあえず彼女を公園のベンチに座らせた。
脚が痛むのだろうか。先程から表情が険しい。
──こんなになってまで捜す程、晴流くんのことが心配なのか。何だか…
「──おかしいですか?」
「え?」
思考を読まれたかのようで一瞬ドキリとした。雪姫は目に見えて疲労していたがいつものように笑みを湛えている。
「いくら兄妹だからって心配の仕方が異常だ…って、思うでしょう?よく言われるんです。けど…」
天を仰げば頭上には朧気に輝く下弦の月。照らされた雪姫の横顔にはうっすらと悲しみの色が広がる。
「仕方がないんです。お互いが、たった一つの居場所だから。」
「居場所…?」
極普通の思い出を語るように、まるで独り言を言うように。雪姫は瞳を細めて語る。
「…わたし達には父親が居ません。そのせいで昔はよく陰口叩かれたりいじめられたりして。いつも二人で痛みを分け合って生きてきたんです。」
──おかあさんに悲しい顔をさせたくなかったから。辛かった出来事は全て二人の秘密にした。