ひとひらの雪


 1年前の事故以来、晴流は度々違和感のある行動を取る。


 例えば、通り魔事件の時。普段の晴流なら走って追い掛けることは出来なくともその場で警察に通報しただろう。しかしあの時はひたすら雪姫を心配するばかりだった。


──冷静過ぎるくらいに冷静な晴流くんが、あんなに取り乱すなんて。やっぱり何かあるとしか思えないよぉ…。


 見通しの悪い濃霧の中で訳も分からず歩かされているような歯痒さ。この事件の根幹たる事象は、いったい何なのだろうか。


 と、その時。ポケットの中でケータイが鳴り出した。


「公衆電話…誰だろう。
──もしもし?」


 即座に出たが、返事はない。悪戯かとも思ったが通話自体は切られていないようだ。


 琥太郎はもう一度声を掛けてみる。すると。


『…琥太郎。』


 返ってきた声は、今まさに捜している人物のものだった。


「は、晴流くん…!?今どこに居るの?みんな捜して…」


『ごめん。今は言えない。手短に伝えたいことがあるんだ。』


 晴流は焦っている様子で琥太郎の言葉を遮る。警察の目を避けて電話を掛けているのだろうか。



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