ひとひらの雪
──どうせなら雪姫ちゃんにすればいいのに。
そう思ったものの現在ケータイを持ち歩いていない晴流からの貴重な連絡を途絶えさせる訳にはいかない。琥太郎は口を噤み言葉の続きを待った。
しかし晴流が口にしたのは、たったの二言。
『目撃者を信用するな。
…雪姫を、頼む。』
「…えっ、晴流くん?それってどういう…」
──ブツッ。
説明を求めようとした瞬間、今度こそ通話は切られてしまった。後に残るのはツー…ツー…という電子音だけ。公衆電話にリダイヤルしたところで晴流は出ない。
全く理解出来ず、琥太郎はその場に立ち尽くす。
──"目撃者を信用するな"…って、どういうことなの?晴流くん…っ!
虫の声がなければ方向を見失ってしまいそうな程の静寂の中、胸の中を支配したとてつもない不安。
彼らを惑わす足音は、すぐそこまで来ていた。