ひとひらの雪


 恐らく一つ目の仮説が有力だろう。人を殺害しようとして失敗した犯人が堂々と姿を現すとは思えないし、晴流も警察の目を避けながらで相当動きにくいはずだから。


 しかし二つ目の仮説も十分有り得る。健康な状態なら問題はないが、晴流は深手を負った身体で窓から飛び降りたのだ。着地の衝撃でほぼ間違いなく、傷は開いてしまっただろう。出血が多ければ命にだって関わる。


 そして三つ目の仮説。これに至ってはもう、最も避けたい最悪の結末だ。


──今はとにかく生きていることを信じて、晴流を捜さなきゃ…っ。


 悪い想像に囚われて立ち止まるくらいなら、たとえ残酷でも真実を。















「──琥太郎っ」


 雪姫は家を出てすぐの場所で待っている琥太郎の元へと駆け寄った。昨夜に引き続き共に晴流を捜す為である。


 しかし琥太郎は考え事でもしているのか足元の一点を見つめボーっとしている。雪姫は顔を覗き込んでもう一度呼んでみた。


「…琥太郎?」


「………えっ!?ああ、雪姫ちゃん。じゃあ行こっか…っ」


 ようやく気づき反応を示したがしかし、やはり琥太郎の挙動はおかしい。



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