ひとひらの雪
「──うん、全員分釣れたね。そろそろ戻ろっか。」
バケツの中の魚達を眺め、奈々が言った。しかし雪姫と斗真の二人は釣り糸を垂らしたまま動こうとしない。
「どうしたの?戻ろうよぉ。」
ようやく振り返った二人はとても不満そうな顔をしていた。
「なんでオレ達だけ…」
「釣れないのーっ!?」
そう。晴流と琥太郎が多めに釣り上げたので全員の夕飯分は確保出来たのだが、雪姫と斗真は一匹も釣れていなかったのだ。
負けず嫌いの二人のこと、釣れるまでは梃子でも動かないだろう。そう考え晴流は振り返って言った。
「琥太郎、悪いけど先に戻って下準備だけしておいてくれないか?」
琥太郎はそれを察し、ニコニコしながらバケツを一個だけ持つ。
「ふふ、日が暮れちゃいそうだもんねぇ。任せておいて。」
「ああ、助かる。」
琥太郎の家は小さな食事処で、本人も料理が得意である。むしろ嬉しそうにテントのある方へと歩いていった。