ひとひらの雪


『…知ってる人?』


 意外なことに鷺沼は琥太郎が吐いた嘘に食いついた。


「…あっ、はい!"かも"なんですけど…っ」


『…』


「…」


 しばらく妙な沈黙が続く。


 鷺沼が思い悩んでいたのは"何故杉崎琥太郎がそこまでして目撃者の情報を得ようとしているのか"ということだった。


──目撃者と天城晴流には何の繋がりもない。けれどその友人達と知り合いだというのなら状況は変わってくる。


 何回か会ったが琥太郎は無茶なことをする人間ではない。必ず雪姫と一緒に行動するよう言ってあるので、単独でいなくなることもないだろう。そう考えた鷺沼はそっと口を開いた。


『…分かった。名前だけは教える。』


「あ、ありがとうございます…!」


 十分だった。悪い人ではないと分かればいいのだから。


 安堵した琥太郎は半ば緩んだ気持ちで鷺沼の言葉を待った。


「いいかい、一度しか言わないよ?目撃者の名前は──」















──そう、悪い人じゃないって分かれば、それでよかったのに。



< 140 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop