ひとひらの雪
『…杉崎くん?杉崎くん、どうかしたのかい?』
鷺沼から告げられた名前を聞いた瞬間、琥太郎の耳には何の音も入らなくなった。
.....
何故なら、知っていたから。
情報を得るためにとっさに吐いた嘘のはずが、本当に琥太郎が知っている人物だったからだ。
晴流は知っていたのだろうか。知っていたからこそ、雪姫ではなく琥太郎に連絡してきたのだろうか。それとも…。
「…刑事さん、すみま…せん…」
『!?杉崎く──』
──ブツ…ッ。
琥太郎は堪らず鷺沼の言葉を遮り通話を切った。ケータイを持った手を力なく下げ、ここではないどこかを見つめる。
「……知りたく…なかった…」
警察や友人達にとってはただの事実でも、琥太郎にとっては怖ろしい因果だった。
雪姫達に出逢う以前に付けられた、深い深い傷痕。目には見えないそれが痛み出して苦しくなる。思わずギュッと目を瞑った、その時。
「──琥太郎っ」
今一番聞きたい声が一筋の光のように心の中に射し込んだ。