ひとひらの雪


 楽しそうに会話する雪姫と湊人。その光景が現実でなければいいのに、と琥太郎は願った。


──雪姫ちゃん、ダメ。彼は…っ。


 伝えなければならないのに。晴流が信用するなと言った茨木湊人という少年のことを。彼と自分の、過去の出来事を。


 それなのに、恐怖と動揺からか声が思うように出ない。


「また会えて嬉しいよ…コタロー。」


 昔と何一つ変わらない。唇の端を片方だけ吊り上げる独特の仕草で、彼は嗤った。その瞬間…。


──ガタンッ!!


「えっ、琥太郎!?どうしたの!?」


 突然琥太郎はその場に崩れ、看板とぶつかり派手な音を立てた。今にも泣きそうな表情で、全身を震わせて。


 雪姫は混乱しながらも慌ててその身体を支えた。すると琥太郎は親に助けを求める小さな子どものようにギュッとすがりつく。必死に、強く、痛い程の力で。


──こんなに取り乱した琥太郎、初めて見た。でもこの様子、まるで…。


 と、その時。湊人は一旦ゲームセンター内に入り店員を引き連れて戻ってきた。


「ここの休憩室貸してくれるって。とりあえずコタローそこで休ませよう。」


「あっ、うん!」



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