ひとひらの雪
深過ぎた傷痕
正午が近づくにつれ賑わい始めた繁華街。その人混みに紛れ歩きながら、湊人はある場所へ電話を掛けていた。
「──あ、ケースケくん。写メ見た?あの顔で間違いないでしょ。」
『うん…』
相手は晴流と琥太郎の通う高校の数学教師・児嶋。一昨日雪姫と遭遇し動揺を見せた人物である。
児嶋は例によって何かに怯えるような、オドオドした口調で湊人に問い掛けた。
『…ねえ湊人。本当に上手くいくのかな?バレたら、今度こそ…』
「心配要らないよ。僕を誰だと思ってんの。」
それに対し湊人は自信と余裕に満ちた声で児嶋を宥める。
「さっそく知り合いになってきたんだ。すっごい騙し易そうな子でさー、計画の実行までそう時間は掛からないと思う。」
『そう…それならいいんだけど…』
「じゃ、また連絡するよ。」
通話を終えてケータイを閉じ、湊人は一人ほくそ笑む。天城雪姫に連れが居て一瞬焦ったが、琥太郎ならば全く問題ないと確信していたからだ。
──逃げることしか出来なかったあいつに、誰かを護ることなんて出来やしないさ…。