ひとひらの雪
反射的に皆振り返った。そして、目の前に広がる予想外の光景に息を呑む。
『…えっ?何よ、これ…っ』
床に散らばった今日の時間割分の教科書とノート。その全てに──油性マジックで暴言や落書きが書き殴られていたのだ。
湊人はそれを慌てて掻き集め机の引き出しに突っ込み、分かり易い作り笑顔を浮かべる。
『な、何でもないです。授業始めて下さい!』
『…』
湊人があまりに必死に誤魔化そうとするので誰もツッコまなかったが、彼の席に程近いクラスメートは皆その事実を目撃していた。
"いったい誰が湊人にこんなことを…?"
口には出さなかったが、全員の脳裏にはそんな黒い疑惑が芽生える。
──けれど、事件はそれで終わりじゃなかった。
無くなった上履きが焼却炉から見つかったり、体操着が便器の中に沈められていたり、机と椅子がゴミ捨て場に放置されていたり。その日を境に湊人に対する嫌がらせが多々続いたのだ。
日が経つにつれ元気をなくしていく湊人。彼は何故か、心配する琥太郎から距離を取っていった。