ひとひらの雪
その日の放課後、クラスの雰囲気がいつもと違っていた。担任が教室を出て行った後も誰も帰ろうとしないのである。
『…?』
不思議に思いながらも琥太郎は席を立つ。自分の席に着いたままの湊人を気にしながら…。
扉を開けようと手を掛けようとした、その時。二人の男子が行く手を阻んだ。
『あの…それじゃあ帰れな…』
二人はとても恐い顔をしていた。そしてそれに萎縮する琥太郎の脇を、なんと二人がかりで抱え教室の奥へと引きずり出したのだ。
『!?ちょ、ちょっと…!?』
窓際に辿り着くと乱暴に放り出された。背中から倒れ込み、思わず涙ぐんだ琥太郎。抗議しようと顔を上げるが、思わず言葉を呑み込む。
二人だけではない。先程まで席に着いていたクラスメートが全員、床に倒れ込んだ琥太郎を冷たい眼で見下ろしていたから。
どう考えても異様な状況。恐る恐る絞り出した声は、形のない恐怖にどうしようもなく震えてしまう。
『…な…何なの…?』
『惚けんなよ。』
そう言って目の前に突き出されたのは、落書きまみれになった湊人の教科書。
『これ、やったのお前だろ?』