ひとひらの雪
言葉の意味を理解するまでに数秒掛かった。しかし、琥太郎は慌てて否定する。
『ち、違うよ!僕じゃない…!』
『だってお前の字だろ、これ!』
言われてみて改めて教科書をまじまじと見た。丸っこいがきっちりとしたその字は確かに琥太郎のものとよく似ている。しかし。
『…僕じゃない。僕は湊人くんに、友達にこんなことしないよ…!』
──バシャ…ッ。
その時、琥太郎の頭に大量の水が降り注いだ。驚き左右を見れば女子二人が逆さまにした空のバケツを持ち、軽蔑の眼差しを向けている。
『…友達?嫌がらせされて傷ついてる友達を突き飛ばしといて、言い訳が通じると思ってんの…!?』
『え…っ』
裏庭での出来事が脳裏をよぎる。完全なる不可抗力とはいえ、あの場面を見られていたのか。
『ちが…』
『それにねぇっ、湊人が見てたんだから!あんたが上履きや体操着隠してるとこ…!』
『!?』
そんなはずはない。琥太郎は絶対にやっていない。しかし目撃したのが湊人だと言われ、思考が停止した。
(違う…人違いだよ。それは僕じゃない…僕じゃないんだ、湊人くん…!)