ひとひらの雪
人垣の向こう側に佇む湊人。その眼は無機質な硝子玉のように琥太郎を射抜く。
──それは"親友"を見る目じゃなかった。
何も言えず硬直した琥太郎を見て肯定と受け取ったのだろうか。クラスメート達の眼が、より一層冷酷なものへと変わった。
──ガラ…ッ!
背後で開け放たれた窓の気配。12月の風が水に濡れた身体に容赦なく吹き荒ぶ。そのあまりの寒さに琥太郎は小さく悲鳴を上げる。
ガタガタと震え出す琥太郎を見下ろしてその時、誰かが言った。
『──飛べよ。』
闇よりも深く、氷よりも鋭い声が胸を貫く。
『そうだ、飛べよ』
『友達を裏切るような奴』
『死んじゃえ』
『湊人はあんたに優しくしてくれたのに』
『最低ー』
『そこから飛んで償えよ』
『裏切り者』
『飛べ』
『飛ーべ』
『飛ーべっ』
いつしか合唱のように、コールのように、皆手を叩き"飛べ"と謳い始めた。
無実なのに。誤解なのに。言いたいことはたくさんあるのに、声が言葉にならない。皆冷たい眼をして、色の無い表情で、琥太郎を見下ろしている。
『…あ…ぁ゙…あ……っ』
突然違う方向に回り始めた世界。先程まで共に笑っていた人達から向けられる敵意が、琥太郎の心を恐怖で満たした。