ひとひらの雪
『『飛ーべっ、飛ーべっ、飛ーべっ、飛ーべっ、飛ーべっ、飛ーべっ』』
『…止…めて…止めて…っ!!!』
瞬間、男子3人がかりで脚を抱え持ち上げられ、身体が窓の外へ半分程はみ出した。
『ひ…っ』
反転する視界。嫌な浮遊感。琥太郎は最後の最後、湊人に助けを求めようと手を伸ばす。
──けど、後悔した。見なければよかった…って。
三日月のように弧を描く唇、気色ばんだ闇色の瞳。先程まで無感情だった湊人の顔には、確かにある種の感情が浮かび上がっていたのだ。
(嗤って…る。)
その瞬間、悟った。今までの出来事は全て湊人の自作自演だったのだと。自分は彼に意図して貶められたのだと。
(ど…して…?いったい僕が、何をしたっていうの…!?)
悲鳴にも似た叫びはしかし彼に届くことはなく、琥太郎は独り曇天の下に落ちていった。
「…教室は二階だったし僕身体だけは丈夫だから、打撲と擦り傷だけで済んだんだけど。それ以来学校に行くのが怖くて…家族で爽北に引っ越して来たんだ。」
「…っ」
今まで詳しく聞いたりしてこなかった琥太郎の過去。その想像を絶する痛みと悲しみに、雪姫は掛ける言葉が見つからなかった。