ひとひらの雪
「変なこと聞いてごめんね。」
照れたような、眉を少し下げた笑顔に晴流も微笑み返す。
奈々が斗真を好きなことは、鈍い本人以外はみんな気づいている。あの雪姫でさえもだ。
そんな状況下で晴流は、自分の気持ちなど伝えられるはずもなかった。
「晴流ーっ、奈々ーっ!捕ったよー!!」
大きな声にハッと顔を向けると、雪姫が笑顔で鷲掴みにした魚を掲げている。その光景に二人は吹いた。
「ぷっ、本当、野生児なんだから!」
水の入ったバケツを抱え、奈々は駆けていった。
結局斗真は一匹も釣れずふてくされていたが、琥太郎お手製バーベキューの尋常じゃない美味しさに、いつしかそんなことは忘れていた。
「琥太郎は良いお嫁さんになれるねっ!斗真来てもらったら?」
「なんで勧める!?」
「雪姫ちゃん!!」
真っ赤な顔してじゃれ合う三人を見て、珍しく晴流がお腹を抱えて笑っていた。それにつられて奈々も涙目になりながら笑う。
──これが五人で笑った、最後の日だった。