ひとひらの雪
身体に覆い被さる不快な重みから顔を背け窓越しに見上げた空は、数時間前までの青さが嘘のように重苦しい鉛色に表情を歪めていた。
目を閉じて、聞こえてきたのは泣き声のような激しい雨の音。1年前愛するひとの命を無慈悲に奪い去った憎き象徴の気配。
いつもなら涙が出てくるのに。言いようのない悲しみに押し潰されそうになるのに。今はただ、絶望に似た虚無感が広がるだけ。
──さよなら……。
生きて雪姫達と笑い合うことも、死してあの世で斗真に寄り添うことも、もう叶いそうにない。
声にならない叫びを噛み殺し虚空に伸ばした腕は傷だらけで酷く醜かったけれど、それでいい。
──罪は背負う。罰も受ける。汚れ役は、わたし一人で充分よ……。
奈々は自分にも他人にも厳しいひとだから。辛いことや悲しいことを限界まで1人で背負ってしまうところがある。
──どうして気づかなかったんだろう。
4日前、晴流のお見舞いに行った時。奈々の表情は今まで見たことがない程に陰っていたというのに。
それは斗真の命日に晴流が殺されかけたこと、犯人として疑われ警察の聴取を受けたことによる当然の反応だと思ってしまったのだけれど。
『あんたのせいじゃない…っ、あんたのせいじゃないわよ…!』
そう言ってわたしを抱きしめてくれた奈々の華奢な腕は、酷く震えていたんだ──