ひとひらの雪
「……奈々に…何があったの…?」
不安を心に押し留め出来るだけ落ち着いた声音で問い掛ける。涼子が縋るような眼差しで震えながら指し示したのは、リビングの隣にある小さな和室だった。
「……見てくる。」
雪姫は涼子を琥太朗に任せ、先程までとは一転慎重な足取りで家に上がる。
一歩近づく度に早くなる鼓動。寒くもないのに震える手でそっと障子戸に触れ、意を決して開け放った。
「……っ!」
瞬間、閉め切られていた部屋のむせかえるような暑さとは別に鼻をつく匂い。鉄と何かが混ざったようなそれは眼前に広がる赤黒い染みと共に、この場所で起きた事象を克明に語っていた。
「……どうして……っ」
雪姫は膝から崩れてしまいそうになるのを壁を支えにしてなんとか堪える。
──嘘だ、嘘だ、嘘だ……っ
争った形跡のある玄関。畳に残された血痕と刃物で付いたような傷。そして、居なくなった奈々。
どれだけ心が否定しようとも頭の中では既に答えが弾き出されている。それはあまりにも残酷で、予想だにしなかった現実。
──どうして、奈々が……っ!?