ひとひらの雪
テントから這い出た雪姫達に斗真と晴流は自分のリュックサックを手渡した。
「?」
「お前らそれ持ってコテージに避難してろ!琥太郎、二人を頼んだぞ。」
「うん!」
「ちょっと待って!」
すかさず奈々が問う。
「二人はどうするの!?」
「テント片付けたらすぐに合流する。」
周りの人達は既に避難を始めていた。誰一人、こんな悪天候の中テントの心配をする人などいない。
「危ないよ!一緒に行こう!?」
腕を掴み必死に懇願する奈々。しかし斗真はその頭をポンッポンッと叩くと、何てことないというように笑った。
「人から借りたものは返さなくちゃ、だろ?」
それはいつも常識人で在ろうとする奈々の口癖の一つだった。自分の言葉だけに何も言えなくなってしまう。
「雪姫ちゃん、奈々ちゃん、行こう!」
琥太郎に促され二人は歩き出す。雪姫も残ろうと思ったのだが晴流の瞳が「行け」と言ってたので、渋々その場を後にした。
もしもあの時、無理にでも連れて行っていれば。せめて五人共あの場に居たなら。何かが違っていたのだろうか。