ひとひらの雪
忘れないから
ゆっくりと開けた瞼。視界いっぱいに映ったのは自室の天井だった。何だか妙に懐かしく感じるそれをただボーっと眺める。
ふと、右から聞き慣れた声がした。
「あらっ、起きた?」
「おかあさん…」
雪姫の母・咲季(サキ)だった。心底ホッとしたような、温かい表情を浮かべている。
「まったく…あなた熱出して三日も眠ってたのよ?心配したんだからね!」
言われてみればまだ熱っぽくて身体が重い。額に乗せてもらったタオルのひやっとした感触がとても心地よかった。
おかげで一瞬覚醒した思考の片隅でふと考える。
──あれは…夢だったのかなぁ?
大雨の中崩れた土砂に流され、荒れ狂う川に飲まれた二人の姿。今でも恐ろしく鮮明に思い出せるが、とても信じられない。きっと熱にうなされて見た悪夢だ。雪姫はそう思った。
「ねぇ、おかあさん。晴流は…」
途端に咲季の動きが静止した。その強張った表情と動揺の色を見せる瞳に、胸の奥がザワリとする。
──夢じゃ、ないの…?