ひとひらの雪
咲季は一度目を逸らしたが、意を決したように雪姫を見据えて言った。
「…本当は体調が治ってから話そうと思ってたんだけど…今、聞ける?」
心の中で聞くなと叫ぶ自分が居る。けれど、逃げ出したって現状は変わらない。
ぎこちなく上半身を起こし、震える腕を押さえながら雪姫は頷いた。
「…分かったわ。落ち着いて聞いてね。」
雨の降りが治まってきたこともあり、あの後すぐに捜索隊が駆り出された。そして半日が経とうとした頃、中流域で重傷を負った少年が発見されたという。
「怪我…大丈夫なの?」
「…とても大丈夫とは言えないけど、昨日意識を取り戻したわ。」
生きている。それだけで嬉しかった。
「良かったぁ…」
久しぶりに見る雪姫の笑顔。しかし咲季は複雑な感情を抱いた。目頭が熱くなるのを堪えながら、そっと告げる。
「雪姫…」
「ん、何ー?」
「斗真くんはまだ見つかってないの。」
窓の向こうでは蝉が鳴いているというのに、部屋の中の空気が一瞬で凍りついた。