ひとひらの雪
─8月1日─



 月が変わったところで何もなく、奈々は自室に閉じこもって空虚な日々を過ごしていた。


 人形のように愛くるしかった表情は消え、魂が抜けてしまったかのように力がない。


──斗真が死んだ。


 その現実を受け止めきれず、流した涙も底をついた。


 好き。その想いすら伝えられないまま居なくなってしまうなんて。


 晴流のお見舞いにすら行かなかった。どんな顔をすればいいか、分からなかったから。


──コンッコンッ


「…?」


 不意に物音がして、奈々は顔を上げた。


──コンッコンッ


 断続的に続くそれがベランダへと続く窓を叩く音だと気づくのに、時間は掛からなかった。


 不審に思いながらも久しぶりにカーテンを開け放つ。そこには…


「奈々!久しぶりっ!」


 部活の練習用ジャージを着た雪姫の姿があった。いつもと同じ、太陽のような笑顔。


「え…雪姫?ここ、二階なんだけど…」


「あー、インターホン鳴らしても出ないから、外のパイプよじ登って来ちゃった!」


 屈託のない表情に、奈々は目をパチパチさせた。



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