ひとひらの雪


 確かに先程玄関に行く気力がなくチャイムを無視した。鍵も掛けてある。だが、だからと言ってベランダから来るなんて。


「…このバカ!何考えてるの!?」


「わーっ、ごめん!」


 奈々はハッとした。怒鳴るなんて久しぶりだ。事故の前日以来だろうか。少し、感情が落ち着いてきた。


「わざわざ来るなんて…どうかしたの?」


 雪姫はバカだが、理由もなしに行動したりしない。


「…うん。奈々を誘いに来たの。一緒に行こう!」


「行くってどこへ…」


 あのキャンプ場は絶対に嫌だし、斗真の両親が遺体のない葬式を開いているとも思えない。


 そんな心情を察してか、雪姫はニカッと笑って言った。


「学校!」


「…は?」


 訳も分からないまま、奈々は雪姫に連れ出された。およそ一週間ぶりの太陽は焼けつくようで、日焼け止めを塗り忘れたことを後悔する。


──そんな余裕が生まれている自分にも驚いていた。


 その後同じ要領で琥太郎を捕まえ、三人は連れ立って夏休みの中学校へと向かった。



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