ひとひらの雪

迫り寄る影

─7月20日─



 あの事故から一年近く経ち、再び訪れた夏。玄関の扉を開けて思い切り吸い込んだ空気は太陽の匂いがした。


「雪姫ー、晴流ー。終業式終わったら真っ直ぐ帰ってくるの?」


 洗濯物を運びながら二人に声を掛ける咲季。すっかり馴染んだ高校の夏服を翻し雪姫は答える。


「んーんっ。今日は久しぶりにみんなで集まるから、帰りは夕方になりそう!」


「…夕飯の材料、要るものがあれば買って帰るけど。」


「そうねぇ…ネギとお醤油だけお願いしようかしら。」


「分かった。」


 ショルダーバッグを担いだ晴流は雪姫に続いて玄関を出る。


「「いってきます。」」


「はい、いってらっしゃい。」


 並んで歩き出す二人の後ろ姿は真夏の日差しに照らされ、眩しく微笑ましい。


「本当…元気になってくれて良かったわ、二人とも。」


 あまりにも辛すぎる出来事に心折れずに居られたのはきっと、お互いを支える存在があったから。


 強く優しく育ち友人にも恵まれた我が子を見守る咲季の表情は、温かくも悲しげなものだった。



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