ひとひらの雪
心臓が有り得ないくらい大きな音を立てた。
そこに居たのはキャップ帽にマスク、ロングコートを纏った男。手にはナイフを握りしめ、確実に雪姫を追って走ってくる。
通り魔じゃないかもしれない、という僅かな希望は脆くも崩れ去ってしまった。
晴流と斗真が事故にあった時とはまた違う、別種の恐怖。今まで感じたことのなかったそれに心は大きく動揺して…。
「わっ!」
足がもつれ、思いきり転んでしまった。
──ダメ、逃げなきゃ…っ!
けれど、もう一度振り返ったとき通り魔との距離はほとんどなかった。
『人気のない道端で切りつけて逃げてくって…』
クラスの子達の話し声が脳内で木霊する。
マスク越しでも分かる歪んだ笑みに鋭く光るナイフの切っ先。大声で叫ぶ余裕なんて無かった。
──誰か…っ!
思わずギュッと目を瞑った。
「──雪姫!!!」
「!?」
突然聞こえた晴流の声。それによって、ナイフを振りかざしていた通り魔は慌てて手を引いた。