ひとひらの雪


 幻聴じゃない。バッと後ろを振り向くと、確かに晴流と琥太郎がこちらに走ってきていた。


 その光景に逃げ出す通り魔。二人はその後を追わず、まっすぐに雪姫に駆け寄った。


「雪姫、大丈夫か!?」


「怪我はない!?」


「う、うん…っ」


 まだ心臓はドクドクと脈打っていたが、少しずつ落ち着いてきた。


「まさか本当に出るなんて、びっくりしたよ…」


──正直、怖かった。


 たとえ命を取られることはないと分かっていても、人の狂気を向けられることは想像以上に恐ろしい。


「っ…バカ!」


 無理に笑顔を作ろうとする雪姫を、晴流はやや乱暴に抱きしめた。


「晴流…?」


 晴流の腕は震えていた。大切ものを失いたくないという想いが、痛い程伝わってくる。


「…もう一人でうろつくな。」


「…うん。ごめんなさい。」


──そうだ。もう自分一人の命じゃないんだった。


 恐怖を上回るように全身に満ちる安心感。その温かさは、どこか切なくもあった。





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