ひとひらの雪
「雪姫ちゃん…」
琥太郎の顔は夕陽に負けないくらい真っ赤だったが、誰も気づいてはいなかった。
「帰ろうっ。」
「…うん!」
しばらく他愛のない話をしながら歩いた。極平凡な近況報告だが、穏やかで楽しい時間が流れる。
中学時代はよく五人でこうして笑っていたなぁと思いながら、雪姫はふと空を見上げた。
少し黒を滲ませたような朱い空。遠くには雲が掛かっていて、どこか重たい印象を与える。もしかしたら夜辺り雨が降るかもしれない。
あの日以来、恐くて恐くてたまらない雨。また何かを失うんじゃないかと不安になる。そんなことはないと、自分を言い聞かせるのだけど…。
「…雪姫ちゃん、大丈夫?」
「へっ?」
「急に辛そうな顔になったから、どうしたのかなぁって…」
言われてハッとした。また、心配を掛けてしまった。
──笑わなきゃ。
心に染みついた条件反射。雪姫は即座に口角を上げ、ニッと笑って見せる。
「…だって、お腹すいて死にそうなんだもんっ!今日はおかあさん仕事だから、これから作らなきゃいけないんだけどー。」