ひとひらの雪
小さな子どものように頬を膨らませ口を尖らせる雪姫。そんな様子に琥太郎は純真な笑みを浮かべる。
「ふふ、それなら久しぶりに家へおいでよ。どうせたくさん作るし。」
「えっ、良いの!?」
琥太郎の家のご飯はかなり美味しい。簡単にそうめんで済ませようと思っていたので、願ったり叶ったりだ。
「わーいっ、やったぁ!じゃあ晴流にも連絡しないと…」
その時。カバンの外ポケットに入っているケータイが突然震え出した。某バスケットアニメの曲が鳴り響く。
「…あれ?公衆電話だ。もしもーしっ。」
電話に出て十数秒。雪姫の笑顔はすぐに凍りついた。
「え…どうしたの?」
只ならぬ気配を感じ取ったのか、琥太郎も真剣な表情に変わる。
雪姫の顔面は蒼白だった。手は震え、今にもケータイを落としそうだ。
「…晴流が…」
情けないくらいに震える唇。ようやく発した言葉は衝撃的なものだった。
「誰かに刺されて、病院に運ばれたって…」
蘇る悪夢。騒がしかった蝉時雨でさえ、最早耳には届かなかった。