ひとひらの雪




「あっつー……」


 身支度を終え外に出た雪姫の第一声はそれだった。空調の効いた体育館とは違い、まだまだ昼下がりの真夏の大気は運動後の身体にはかなり堪える。


 それでも足取りがしっかりしていたのは、きっと──


「あ、雪姫ちゃーん!こっちだよぉーっ」


 聞き慣れた声に導かれ振り向くと、正面階段を下りた所で奈々と琥太朗が大きく手を振っていた。雪姫は笑顔で走り寄る。


「遅くなってごめんっ!中で待ってれば良かったのに、暑かったでしょう?」


 夏休みが始まって以来最高の気温を叩き出した今日、屋根も無い外で一時間近く待っていたのか。そう思うと少々罪悪感を感じてしまう。


「ううん、平気よ。中結構混んでたし、冷房が効き過ぎてたからちょうどいいくらい。」


 奈々がスッと見せたのは日焼け止め。さすが仲間内で一番のしっかり者、対策も抜かり無いということか。


「そういえば、バスケ部の子達と一緒に帰らなくて良かったの?監督が『優勝したら焼き肉奢るぞ!』って言ってたの、楽しみにしてたんじゃ…」


「んー、そのつもりだったんだけど…」


 食い気を放棄したことが相当不思議なのか疑問符を浮かべる2人に、雪姫はそっと微笑んで答える。


「……やっぱり、先に報告するべきかなぁって思って!」


 その言葉を聞き数秒顔を見合わせた二人はしかし、すぐに賛同の意を示す。


「うん、そうだねぇ。きっと喜ぶよぉ……!」





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