ひとひらの雪
何故、不幸というものは人に偏って降り注ぐのだろう。何故、まだ十年そこそこしか生きていない子どもがこんなにも失うことを怖れなければならないのだろう。
鳩山は下手すれば自分の孫くらいの年齢であろう雪姫を見つめ、言った。
「…絶対に犯人を捕まえてみせます。あなたが話してくれたことは、きっとプラスになる。」
うんうんと頷いていた鷺沼も付け加える。
「病院には交代で見張りをつけているから、お兄さんの安全は保障するよ。」
「…ありがとうございますっ」
ほんの少しの安堵。久しぶりに雪姫は太陽の笑顔を輝かせた。
と、その時。ケータイのバイブレーター音が鳴り出す。
「あ、ちょっと失礼。」
立ち上がり店の外に出た鷺沼。窓から覗いたその表情はやや険しく、何かがあったことは明白だ。
──どうしたのかなぁ?
数十秒後、店内に戻ってきた彼に尋ねようとしたのだが、その言葉は遮られてしまった。
「そろそろ行きましょうか。」
「そうだな。」
二人に習って視線を壁の飾り時計へと向ける。雪姫も戻らなければいけない時間だった。