ひとひらの雪
予想外に奢ってもらい、雪姫は一足先に店の外へ出た。
外は茹だるような暑さで、堪らずジャージはどうかと思い羽織ってきたパーカーを脱ぐ。その時。
──…あ、れ?
ふと、小さな疑問が浮かぶ。
「どうかしましたか?」
会計を終え続いて出てきた刑事二人は静止していた雪姫を訝しがった。
「あっ、いえ…今ちょっと思ったんですけど…」
ふいに感じた違和感。その正体を教えてくれたのは、この焼けつくような陽射しと鼓膜を震わす蝉の鳴き声。
「こんなに暑いのに、どうして通り魔はコートを着ていたんだろう…って。」
先日警察に行った時、通り魔の特徴を聞かれた雪姫は確かにこう答えたのだ。
『わたしと同じくらいの背で細身の男。服装は黒いキャップ帽子にマスク、黒いロングコートを着てました。』
「確かに、妙ですね。」
不可解ではあったもののこの時、三人はあまり深く追求しなかった。
5通の手紙から通り魔が犯人の可能性はゼロだと分かっていたし、何より関係ないと思ったことに割く時間や余裕など持っていなかったのである。