ひとひらの雪
「…あれっ?」
意気込み勇んで病室に入ったものの、晴流は眠っていた。潔癖な白に響く寝息はとても穏やかで。
──生きて、る。
話せないのは残念だが、その事実だけでも十分救われた。
「…ふう。起こしちゃ悪いし、お花換えたら帰りましょ。」
「そうだねぇ。」
花瓶を持って奈々と琥太郎は病室を出て行った。
残された雪姫はそっと丸椅子に腰掛け、しばし無言で晴流を見つめてみる。
柔らかな夕陽に照らされたその横顔は自分とそっくりなようで、どこか違う。
「…傷だらけだね。」
身体も、心も。たぶん後者の方が大きいのだろうけれど。
例の手紙。一通だけ引き出しではなく郵便受けに入れっぱなしになっていた理由に、雪姫は気づいていた。
"犯人を捜してくれ"
じゃない。
万が一死んだ時、
"オレは憎まれるだけのことをしたんだ。だから悲しむな。忘れてくれ"
という意味。
バカだ。忘れるなんて出来る訳ないじゃないか。
もし本当に殺されていたなら。雪姫は犯人を見つけ出して、死ぬ程殴って、枯れ果てるまで泣き叫んだだろう。