ひとひらの雪


 事件に"斗真"の存在が絡んできた時点で、彼と親しい者が疑われることは分かっていた。分かっていたけど。


「琥太郎も奈々も、そんなことするはずないのに…っ」


「他人はそうとは思わないんでしょ。」


 奈々の瞳がスッと細められる。それはまるで雪姫と出会ったばかりの、他人を寄せつけなかった頃の姿。


 その雰囲気に圧されながらも琥太郎はもう一つ、と口を開く。


「…あのねぇ、今日雪姫ちゃんの学校に行く途中、優兄ちゃんに会ったんだけど…」


 続きは言わなくても分かっていた。この状況下で最も疑われているのは、斗真の身内。


「…優兄ちゃん家にも警察の人達がやって来て、晴流くんを恨んでいるか…って、聞いたんだって…っ」


 見る見るうちに琥太郎の目は涙で溢れ返った。こちらに背を向けている奈々の肩も小刻みに震えていて。


「…っ」


 晴流を傷つけた犯人を捕まえてほしい。そう願ったけれど。


──これじゃあ、みんなの傷口を抉ってるだけだ。


 奈々も琥太郎も優真も、そんな逆恨みをするような人間ではない。理由こそ違えど斗真の両親だって。



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