ひとひらの雪
優勝が決まった瞬間雪姫の脳裏に浮かんだのは、真っ白な部屋で独り待つ少年の姿だった。
──会いに行こう、みんなで。
誰から言うでもなく、全員の足は自然と同じ方向へと動き出す。
今年の大会は隣県で行われた為、電車で2時間も掛からずに地元の駅に戻ってくることが出来た。そこから中心街方面へバスで2駅の所に彼らの目的地は在る。
爽北中央総合病院──夕陽を浴びても尚白さが際立つ、設立からまだ間もない大きな市民病院だ。
淡いアイボリーの長椅子が整然と置かれた待合室を横切り、雪姫は慣れた様子で受付を済ませる。
エレベーターで3階まで上がり右の通路の奥から2番目の部屋の前に立った。そして、一つ深呼吸をしてからドアをノックする。
──コンコン…ッ
「晴流(ハル)、入るよー。」
ドアを開けたその向こう。ベッドの上で上半身を起こし窓の外を見つめていた少年が、雪姫の声に反応しゆっくりと振り向いた。
包帯の隙間から覗く右の瞳、逆光に透ける黒茶の髪。1ヶ月寝たきりだったせいでやや痩せてはいるが、中学生にしては長身でスラリとした体つき。
天城晴流──雪姫の双子の兄である。