ひとひらの雪
雪姫は現在片目しか使えない晴流にもちゃんと見えるように、ベッドのすぐ傍まで寄った。そしてニッと笑い、監督に頼んで持ってきた賞状を掲げる。
「じゃーん!女子バスケットボール部、見事優勝しましたーっ!!」
その言葉に一瞬大きく見開かれた晴流の瞳。しかしそれはすぐに優しく細められた。まるで『おめでとう、よくやったな』と言うように。
そして言葉を発せない代わりなのだろう。痛々しい程包帯に包まれた右手がスッと持ち上げられ、少し躊躇いながらも2人は控えめなハイタッチを交わした。
久しぶりの温もりが懐かしくて。確かにここに居ると、生きているのだと教えてくれる。
嬉しさと安心感に満ちた雪姫は晴流に試合の様子を事細かく語り始めた。相手チームに10点も差をつけられたこと。後半で巻き返し、雪姫の3ポイントで逆転勝利したこと。
大きな身振り手振りで興奮気味に話す雪姫の姿はまるで、
..........
ここに居ないもう1人にも聞かせているかのようだった。
「……私、お花替えてくるね。」
そんな中、奈々は駅前の花屋で買ってきた青いスイートピーと霞草の花束、それと花瓶を持って病室を出ていく。
その後ろ姿が寂しげだったことに気づいた雪姫は、心の中に冷たい塊が落ちるような感覚になった。